タイトル
<熊と共存するための基礎講座>
講  師南 正人氏 、大西信正氏
(軽井沢のピッキオでクマの調査・研究に従事)
場  所県立八ヶ岳自然ふれあいセンター
日  時2007年2月21日(水曜日) 10:00〜16:00
天  候
参加人数60名


八ヶ岳山麓には熊は生息していない、と思われてきましたが、最近 熊の目撃情報が増え、主としてキープ協会管理地周辺で活動する我々にとっても 熊についてのより深い知識が必要になってきました。

そのような状況に鑑み、今回八ヶ岳自然ふれあいセンターと共催で熊に関する基礎講座として、軽井沢のピッキオで熊の調査・研究をしておられる 南 正人氏 、大西信正氏の両氏をお招きして、熊に関する最新の情報をお聞きすることにしました。両氏は熊の調査・研究を始めてまだ日が浅いそうで、 むしろシカについて長年、宮城県の金華山で調査・研究をされており、シカのほうが専門だそうです。

熊は学習能力の高い動物で、ゴミ箱の蓋を開けたり、冷蔵庫のドアを開けることが出来ます。基本的には人を襲わない動物ですが、 驚いたり興奮すると人を襲います。熊に遭遇したときは、静かに少しずつ後ずさりすることが大切で、大きな声を出したり駆け出すことは危険です。 また熊は縄張りを持たないので、町に出てきた熊を殺しても効果は一時的で、別の熊が出てくる可能性が大きく、駆除だけで熊の出没を防ぐのは困難です。 ゴミは熊が触れられないよう隔離して、町の美化に勤め、山では落葉広葉樹林の保全を図り、越冬できる穴蔵を確保することが 熊との共存には大切だ、 ということが分かりました。



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本日の講師・ピッキオの南さんと大西さん

会場はほぼ満員です。

熊の生態についてプロジェクターを使って説明されました。

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春はフキノトウや笹の子やうどなどを餌にしています。

夏は蜂の巣や蟻が餌になりますが、意外と餌が少ない季節です。

秋は果実の実が豊富で、たっぷり食べて冬眠に備えます。

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冬は穴にこもり冬眠します。出産・育児もこの時期になります。

生まれたばかりの熊の赤ちゃん

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このようなゴミの山は熊の格好の餌場になります。

熊はゴミ箱の蓋を開けることができます。

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熊に開けられないよう改良されたゴミ箱が開発されました。

北海道の熊牧場で賢い熊を使って開けられないことを確かめます。

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軽井沢で捕獲した熊に発信機を付けて山に放します。

発信機を付けた個体を追跡することによって、熊の行動範囲や移動距離が明らかになりました。

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熊が別荘地へ入り込んでも人を避ける個体は人の怖さを学習させて 山へ戻し、家周辺に居ついて人を避けなくなった個体は駆除する必要があります。 その前に熊の餌となるゴミなどの誘引物質を出さないようにすることが大切です。 それは町の美化にもなります、と南さん


講演後、熊に関する色々な品が展示されました。

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熊が荒らしたゴミの残骸

ツキノワグマの毛皮。喉に三日月の形がない個体もいます。

熊の糞に含まれていた木の実の種

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質疑応答で「熊に遭遇したときの対処法」に付いての質問があり、 その場合は急所の頚動脈をこのように手で覆って地に伏せ、 攻撃されてもじっと我慢すること、と説明する大西さん。

午後のプログラムに入る前に、予定外のシカについての講演があり、 シカの角に関する興味深い調査・研究の結果を聞くことが出来ました。 宮城県金華山に生息するシカ一頭一頭に名前を付けて、その一生を追跡するという 長い年月を掛けた膨大な調査の一端です。

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雄のシカには立派な角があります。

角の枝は年齢の数だけあると思われていますが、個体差があり決まっていません。

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金華山のシカの角は清里のシカの角に比べて軽い、と天秤で比較する南さん

金華山のシカの角を調べると、長さ当りの重さが他の地域のシカより軽いことが分かりました。 つまり角はスカスカなのです。原因は餌不足です。

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餌不足でも角は短くはなりません。威厳を保つためにも戦いのためにも 大きな角が必要なのです。

シカの雄は縄張りを持ちハレムを作りますが、それは雄のほんの一部のみです。 そのような雄は体重も重く、角もスカスカではありません。

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島の草はほとんど食べつくされています。

棘のある草に守られている草だけが、かろうじて生き延びています。

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シカの旺盛な食欲で島の植物が少なくなり、シカの生存を脅かします。 又シカの糞に依存する地中の動物が増え、生態系が変ってきています。

高いフェンスで囲まれた一角のみ植物は生存できます。


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講演の後、フィールドに出ました。

20m程先にある藪などは熊が潜んでいる可能性があり、注意する必要があります。

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このような低い柵でも熊よけになります。

倒木がゴロンとひっくり返されていたら熊がいたのかもしれません。 熊は倒木の下にいる蟻や虫を探しているからです。

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シカの糞は春の草など水気の多い餌を食べる時期は大きな塊になりやすく、 秋や冬場の水気の少ない餌を食べるときは小さく、コロコロしています。


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