八ヶ岳南麓の

フクロウ生息調査と保護活動

フクロウの生息や生態に関する調査と保護を目的として 当クラブでは会員有志を募って2004年フクロウ・プロジェクトを立ち上げました。 八ヶ岳自然クラブとしては初めての規模の大きな、長期間の調査保護活動になります。フクロウ用の巣箱を掛け、営巣から雛の巣立ちまでを観察します。 巣箱の設置範囲は東西10km 南北5kmに及び、20個以上の巣箱を掛けての永続的な調査・保護活動です。

2004年12月上旬までにフクロウの巣箱を23個掛けました。2005年にはその内4個の巣箱に営巣し、8羽が巣立ちました。 翌2006年には11個の巣箱に営巣し、27羽が巣立ち をしました。しかし2007年の営巣巣箱は3個で、巣立ちした雛は4羽でした。
その後巣箱の管理を十分行った結果、毎年多くの雛の巣立ちが確認されるようになりました。 しかし4〜5年過ぎた頃からテンなどの野生動物に雛がおそわれる例が増加しはじめ、巣箱の位置変更、防護材の取付などをしましたが、 ある程度の効果はあるものの絶対と言えるような対策は見つかりません。自然の中での子育てを見守る難しさを感じながら活動を続けています。

・2013年、巣立ちヒナの累計がついに100羽を越えました。
・2015年、老朽化した全ての巣箱を新しい巣箱に交換しました。

活動内容は下記をクリックしてご覧ください。
活動スタート時点の様子     ・全巣箱の更新    ・巣箱の点検・補修
巣立ちした雛の過去実績表    ・巣材の回収     ・巣材の分別作業(麻布大学)

 
 

<フクロウの生息・生態調査の説明会>

2004年9月28日フクロウの生息・生態調査の説明会が会員有志約30名を集めて 八ヶ岳自然ふれあいセンターで開催されました。

写真1 写真2

八ヶ岳自然ふれあいセンターでの説明会に集まった会員達


<巣箱設置場所の調査>

会員からフクロウに関する情報を集め、巣箱設置の適地を探しました。

写真3 写真

現地の会員から周囲状況を聞きます。

巣箱設置の候補地を訪れ、適地かどうかの判断をします。

写真5 写真6

晴れた日も小雨の日も多くの巣箱設置候補地の調査を続けました。


<巣箱製作>

フクロウ博士の樋口さんの助言やインターネットでの情報を基にグループリーダーたちが巣箱を独自設計しました。 2回の試作を経て作りやすく、且つ軽量化した巣箱をフクロウグループの会員達が集まって作り上げました。

写真7 写真8

巣箱製作に約20名の会員が集まりました。作り方の説明があったあと数グループに分かれて組み立て開始

写真9 写真10

次々と組み上がって行きます。

完成した巣箱


<巣 箱 掛 け>

巣箱を掛ける場所は大半が傾斜地であるため、足場が悪く、かなりの困難を伴いました。 又巣箱の重量も軽量化したとはいえ、8〜10kg あり、一人で取り付けるには重すぎて、二人掛りの作業になりました。

写真11 写真12

高所に巣箱を取り付けるため、ハシゴや脚立を準備。倒れないようしっかり押えます。

写真13 写真14

巣箱の取り付けは二人掛りの作業

無事取り付け完了しました。


<フクロウ勉強会>

巣箱の観察と平行して、北杜市大泉町の総合会館で全6回にわたってフクロウの生態や生息環境などについての勉強会が開催されました。

写真15 写真16

フクロウグループの会員の内12名が勉強会に参加しました。

関連する参考書が紹介されました。


<会員による観察>

設置された巣箱一個毎に担当者を決め、定期的な巣箱の観察が始まりました。

写真19 写真20 写真21

八ヶ岳山麓一帯で会員による観察が始まりました。 雪の日も観察を続けます。

上へ

 
 
 

・・・・・・ フクロウ保護活動が始まって11年が経過しました。 ・・・・・・

 
<更新巣箱の製作>

木製の巣箱は7〜8年経過した頃から傷みが進み、次第に使用できなくなってきました。 幸いサントリー世界愛鳥基金に申請していた助成金の交付が決まり、この助成金を使って全ての巣箱を作り替えることにしました。

巣箱は前回作った巣箱にいくつかの改良を加えて設計し直しました。 巣材の入れ替えがしやすいように、取り出しは全て底部から出すようにし、又両サイドに3本のスリットを入れて観察しやすくしてあります。 さらに傷みやすい部分に耐水合板を使うなどして耐用年数が長くなるようにしました。


巣箱は組み立てる前にあらかじめカットや穴開けをして一個ずつの巣箱キットにします。

写真101 写真102

巣箱キット作りはフクロウグループ委員の手で行われました。大工さん顔負けの作業をご覧下さい。


写真103 写真104

丸鋸やドリルスタンドなどの工具を駆使して正確な加工がされていきます。


巣箱キットが出来上がると、 フクロウグループメンバーが八ヶ岳自然ふれあいセンターに集まり、フクロウ巣箱の組立に入ります。

写真105 写真106

リーダーから組立の手順について説明を受けます。

グループ委員の手で作られた巣箱キット。


写真107 写真108

前後左右の側板をインパクトドライバーを使ってネジ止めします。

屋根は前後左右のはみ出し部分を規定通りになるよう慎重に位置決めします。


写真109 写真110

屋根に貼る屋根材をカットします。切りにくい材料なので力がいります。

屋根材を木ねじで留めていきます。


写真111 写真112

完成した巣箱。左は屋根が前傾斜したタイプで右は屋根が後へ傾斜したタイプです。 右側の巣箱の屋根の裏側(下側)に凸面鏡が取付けられており、観察時巣箱の下から内部を見ることが出来る。 いずれの巣箱も営巣の確率はほぼ同じです。

側板にある巾2mmの3本のスリット。
左右の側板の同じ位置にあり、 観察時横方向からスリットを見ると内部にフクロウが居れば光が遮断されるため存在が確認出来る。 10〜20m離れても双眼鏡で確認出来、観察に威力を発揮します。


<巣箱の掛け替え>

組み立てた巣箱を朽ちかけた古い巣箱と交換します。巣箱は樹齢数十年の樹木の地上4m前後の位置に取付けます。 現地に直接車は入れないので全員で脚立や巣箱・工具類を担いで入ります。グループメンバーが交代で3日間かかりました。

写真113 写真114 写真115

古い巣箱をはずします。はずす作業は比較的簡単です。


写真116 写真117 写真118

新しい巣箱を取付けます。重さが12kg位あり、かなり重い。年寄りにはきつい!


写真119 写真120 写真121

巣箱に巣材としてバークチップ(樹皮のチップ)を入れます。


写真122 写真123

巣箱の出入り口に発泡スチロールに黒い塗料を塗ったタッチ板を貼付けます。フクロウが巣箱に来ると出入り口に一旦留まります。 足のツメが発泡スチロールの表面塗装を破って食い込み、白いキズが付くのでキズの多さで来巣頻度が分ります。


写真124 写真125 写真127

小屋の屋根によく使われている波板。幹に巻くと動物のツメが滑り、登れなくなります。

おろし金のような鋭い突起のある有刺鉄板を波板の下側に取付けます。

左の動物撃退用具を取付けて
設置完了

上へ

 
 
 

・・・・・・ 巣箱のメンテナンスは大切な作業です。 ・・・・・・

 

< 巣箱の点検・補修 >

巣箱はフクロウの営巣の有無にかかわらずメンテナンスが必要です。巣箱の点検・補修を怠ると翌年の営巣はほゞ絶望的になります。 特に巣材の入替えは重要です。

 
写真161 写真162 写真163

ほとんどの設置場所は地盤が軟らかく、しかも傾斜地なので脚立を立木にロープでしっかりと固定します。

最初に古い巣材を取り出しますが、この巣箱は営巣した巣箱なので、すでに巣材は研究材料として取り出されています。 念のため異物が入ってないかを確認します。

巣箱の状態(傾き・破損・タッチ板の状況・ミラーの汚れ・動物避けの有刺鉄板等の状況)を記録します。


写真164 写真165 写真166

巣材としてバークチップを使います。このチップは樹皮を長さ2cm前後、巾1cm前後に削った樹皮チップです。 それを上の写真の容器で3杯位を巣箱に入れます。


タッチ板の交換

タッチ板とは巣箱の入口に貼る発泡スチロール製の板です。 表面に黒い塗装がしてあります。フクロウが入口に止まると足のツメが発泡スチロールに食い込み、 白いキズが付くためフクロウの来巣頻度が分ります。

写真167 写真168 写真169

古いタッチ板を剥がします。

新しいタッチ板に貼ってある両面テープを剥がします。

タッチ板を所定の場所に正確に貼付けます。


写真150 写真151

古いタッチ板の両面テープが綺麗に剥がれずに残ることがあります。 汚れが残っていると 新しく貼ったタッチ板が剥がれやすくなるので、ナイフを使って綺麗に剥がします。

巣箱内部を観察するためのミラーの汚れを拭き取ります。 しつこい汚れでなかなか綺麗になりません。


写真172 写真173 写真174

巣箱の下に取付けてある動物撃退用の有刺鉄板が半分剥がれています(左矢印)。元の位置に戻し、しっかりと固定します。


写真175 写真176

巣箱メンテナンスの終了した巣箱、フクロウの営巣を待ちます。

上へ

 
 
< 保護活動の実績 >
設置
巣箱数
営巣巣箱数
( )内は
巣立巣箱数
巣立ち
雛 数
累 計 特 記 事 項
2005 23 3(3) 6 活動開始1年目
2006 23 11(11) 27 33 4羽巣立った巣箱1個、3羽巣立った巣箱4個
2007 23 3(3)  4 37 巣材入れ替えが不十分だった。
2008 21 8(6) 15 52 入念な巣箱清掃・巣材入替え等を実施
2009 23 10(8) 13 65 上記以外に巣箱の補修・撤去・移設を実施
2010 21 5(3)  4 69 テン、ハクビシン等の動物被害が多くなった。
2011 15 6(4) 75 ウルフピー(*1)による動物被害対策を行った。
2012 17 10(8) 15 90 有刺鉄板(*2)による動物被害対策を行った。
2013 17 8(5) 10 100 隣接する木の枝から巣箱に侵入される等 動物との知恵比べが熾烈になる。
2014 17 9(9) 14 114 有刺鉄板に加えてプラスティックの波板を木に巻き付ける方法を追加した。この組み合わせは動物撃退方法としては効果があった。
2015 17 7(3) 120 雛や卵が動物に襲われた巣箱がいくつかあり、営巣した親フクロウの巣の放棄も見られた。
2016 18 8(6) 11 131 全巣箱を更新、内8個に営巣、6個の巣箱から11羽が巣立った。
新しい巣箱もフクロウに気に入られたようだ。
2017 18 10(9) 18 149 今年も営巣巣箱の内1個が巣箱放棄された。
2018 18 9(9) 20 169 巣箱内に敷き詰めてある樹皮のチップ(バークチップ)を大きいLサイズにした巣箱は営巣しなかった。 小型のS,Mサイズが好みのようだ。
2019 18 8(7) 12 181 卵を3ヶ生みながら放棄された巣箱があった。
又、巣立ち巣箱の中に未孵化卵や雛の死骸の残された巣箱もあり、全てが順調とは言えない結果だった。
2020 18 8(5) 189 卵を生みながら放棄された巣箱が2ヶあった。
2021 17 6(6) 11 200  
2022 14 8(6) 15 215 営巣放棄された巣箱が2ヶあった。巣立間近の雛2羽の内1羽が死んだ巣箱があった。 営巣してない巣箱に猫の頭があった。
2023 14 9(8) 17 232 営巣放棄された巣箱が1個あり、卵が7ヶ残されていた。何故7個もあるのか、理由は不明。
2024 14 8(7) 14 246 営巣放棄された巣箱が1ヶあった。理由は不明。
観察年 設置
巣箱数
営巣巣箱数
( )内は
巣立巣箱数
巣立ち
雛 数
累 計 特 記 事 項
 巣箱に外敵が侵入した場合親フクロウは巣箱を放棄することがあり、営巣巣箱数と巣立ち巣箱数に差が出ます。
 営巣巣箱数と巣立ち巣箱数の数字が同一の年は営巣した巣箱から全て雛が巣立ったことを表します。
 *1 オオカミの尿を商品化したもの・・・臭いで撃退(効果はイマイチだった。)
 *2 おろし金状の鋭い突起のある金属板を幹に巻き、動物の木登りを妨害する。
    (ある程度の効果が確認された)
<フクロウの雛>
写真31 写真32
巣立ちが近づき巣箱から顔を出した雛 巣立ちした雛
上へ
 
 

 
 
 

・・・・・・ 営巣した巣箱は貴重な研究材料です ・・・・・・

< 巣材の回収 >

フクロウは巣箱で産卵した後、抱卵ー孵化ー巣立ちまで約2ヶ月間巣箱で子育てします。 巣立ちした巣箱には2ヶ月間の生活の痕跡が残っており、巣箱内の「巣材」を回収・分析するとフクロウの食生活が分ります。

 
写真141 写真142 写真143

巣箱の側に脚立を設置します

脚立が動かないよう木にロープで固定します。

巣材の回収前に巣箱内部を撮影します。

写真144 写真145 写真146

回収には家庭で使われているポリエチレン製のゴミ袋を用います。

巣箱の下部をゴミ袋で覆います

巣箱の底板を手で押して外すと内部の巣材は一気にゴミ袋の中へ落ちます。

写真147 写真148 写真149

ゴミ袋を下ろします。

ゴミ袋に入っている巣箱の底板に付いている巣材を綺麗に落とします。

底板を巣箱に取付けます。

このような方法で営巣した巣箱を順次回って巣材を回収します。営巣巣箱が多いと丸一日かかります。


回収した巣材の中身を見てみましょう。

写真150 写真151

巣材のバークチップ(樹皮のチップ)の中には
いろいろなものが入っています。

中を探ると未孵化の卵が出てきました。こういうことは滅多にありません。とりあえず撮影します。

写真152 写真153

フクロウの餌になった小鳥の羽がありました。

これは餌になったネズミの骨です。

写真154 写真155

巣箱ナンバーを記入して袋の口を縛ります、

写真156 写真157

巣箱の下の地表にペリットを見つけました。

拡大したペリットの写真

フクロウは餌となるネズミや小鳥を丸呑みにします。 胃で消化されなかった骨や羽は塊にして吐き出します。この吐き出した塊をペレットと呼びます。 フクロウの餌の内容を知る重要な手がかりです。


回収した巣材は麻布大学で野生動物の生態について研究されている高槻先生の野生動物学研究室へ送っています。 研究に役立つと同時に学生達の教材としても使われています。

麻布大学いのちの博物館のホームページは こちら をクリックしてください。

上へ

 
 
 

・・・・ いつもの八ヶ岳山麓での活動から離れて相模原市にある麻布大学いのちの博物館での活動です ・・・・

< 巣材の分別作業 >

フクロウの巣箱から回収した巣材は数年前から麻布大学で野生動物の生態について研究されている高槻先生の野生動物学研究室へ 送っています。研究室では巣材に残されている餌となった動物の骨を取出し、動物の種類を特定して食性分析をしています。 今回巣材の分別作業に八ヶ岳自然クラブから数名が参加しました。

 
写真201 写真202

麻布大学いのちの博物館。 ここで2017年7月〜10月までの4ヶ月間フクロウについての特別展示会が開かれています。

いのちの博物館2階に巣材の分別をするための部屋が用意されています。

写真203 写真204

分別作業の前にフクロウの身体的特徴や餌となるネズミの骨の構造や形について高槻先生から説明をしていただきました。 参加者は2つのグループに分かれて分別作業をしました

分別作業は次のような段取りで進みます。
写真205 写真206 写真207

ネズミの骨格標本、この骨がばらばらになって巣材の中に交じっています。 関節から関節まできれいに残っている骨は少なく大抵は途中で折れています。

フクロウ巣箱に残されていた巣材をこの容器に一握りくらい取り、ピンセットで探りながら 骨を探します。

見つかった骨がどの部位かを判断して骨格図の上に並べていきます。

写真208 写真209

こちらは社会人、学生、高校生、小学生など若手グループ。 手を上げてどんどん質問しています。活発で積極的で作業はハイスピードです。

こちらは八ヶ岳自然クラブから参加した高齢者グループ。老眼鏡を掛け、必死に頑張っていますが 若手のスピードにはかないません。

写真210 写真211

分別した骨を部位別にシャーレに入れてまとめました。大腿骨、頸腓骨、下顎骨などは 多くありましたが、細い上腕骨、尺骨などは粉砕されたのか少なめでした。

作業終了後 高槻先生から一人一人に感謝状が手渡されました。

写真212 写真213 写真214

作業終了後高槻先生にフクロウの展示会場を案内していただきました。

自然クラブから提供されたフクロウ巣箱が展示されています。 巣箱右側の板が2枚外されて内部が見えるように工夫されています。

写真215 写真216

写真の展示コーナー「フクロウギャラリー」には八ヶ岳自然クラブの会員から 提供されたフクロウの写真が展示されています。非常に鮮明な写真で高槻先生も絶賛されていました。

写真217 写真218

ケースの中には分別作業で取り出されたネズミの骨が数百本綺麗に並べられています。

上の写真では少々分りづらいですが、透明なアクリル円筒の上に実物の骨が置かれ、 背後のテーブル上に10倍の模型を置いて分りやすく展示されています。

麻布大学いのちの博物館のホームページは こちら をクリックしてください。
上へ

戻る